サルコペニアとは
サルコペニアとは加齢などにより筋肉量や筋力が低下し、それによって身体機能が低下した状態 を言います。
身体機能が低下することで「疲れやすい、歩行速度が低下する、転倒しやすい、不調を引き起こしやすい」 といった日常生活での問題が多くなってきます。
サルコペニアは寝たきりや要介護の入り口とも言えるので、しっかり予防をしていくことが、快適な高齢期を過ごすためには必須になります。
サルコペニアの診断基準
1.筋肉量の低下
2.筋力の低下
3.身体機能の低下
日本老年医学会,大内尉義総監修:サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサスの監訳とQ&A.より引用
筋肉量の低下は体組成計などでわかります。筋力や身体機能低下は運動負荷テスト(例えば腕立て伏せを何回できるかなど)や、身体機能チェック(片脚立ちなど)で計測することができます。
サルコペニアの診断チェックに関しては健康長寿ネットの「サルコペニアの診断」をご覧ください。
【普段の歩きでセルフチェック】
また自分で確実にわかることといえば、歩行です。
・歩くのが遅くなった
・歩幅が狭くなった
・ふらついたり、バランスを崩しやすい
・つまづきやすくなった
こういったことがあれば仮にサルコペニアでなくても、日常生活を健全に過ごすための最低限の身体機能が、確実に衰えている証拠です。
サルコペニアの分類
サルコペニアは大きく分けて加齢が原因の一次性サルコペニアと、加齢以外にも原因がある二次性サルコペニアがあります。
一次性サルコペニア | |
加齢性サルコペニア | 加齢以外に明らかな原因がないもの |
二次性サルコペニア | |
活動に関するサルコペニア | 寝たきり、不活発なスタイル、(生活)失調や無重力状態が原因となり得るもの |
疾患に関連するサルコペニア | 重症臓器不全(心臓、肺、肝臓、腎臓、脳)、炎症性疾患、悪性腫瘍や内分泌疾患に付随するもの |
栄養に関係するサルコペニア | 吸収不良、消化管疾患、および食欲不振を起こす薬剤使用などに伴う、摂取エネルギーおよび/またはタンパク質の摂取量不足に起因するもの |
日本老年医学会,大内尉義総監修:サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサスの監訳とQ&A.より引用
サルコペニアに陥るパターン
サルコペニアの分類で解説しましたが、サルコペニアになる原因はいくつかあります。しかしサルコペニアになってしまう人の多くは、病気などが原因ではなく運動不足などの生活習慣によるもの です。
最も多いのは次のようなパターンです。
サルコペニアになる悪循環のパターン
<加齢により筋力が低下して起こるパターン>
特に運動習慣がない。
↓
加齢により筋力が低下しやすい。
↓
疲れやすくなり、日常生活の活動量が減る
↓
ますます筋力が低下する
この悪循環が最も多いパターンです。疲れやすい、すぐ疲れるといったことから、あまり体を動かさなくなり、それによりますます筋力低下が加速してしまうケースです。ここから抜け出すためには、まず運動を始めて体を動かしていくことです。
タンパク質不足も大きな原因
加齢による食事量の減少、特にタンパク質不足もサルコペニアの大きな原因です。タンパク質の不足は筋肉量の低下や身体機能低下を加速させてしまいます。
筋肉の原材料であるタンパク質の摂取量が少ないため、筋肉が修復再合成されず、徐々に減ってしまうのです。
サルコペニア予防には運動とタンパク質が重要
運動不足とタンパク質の摂取不足、どちらもサルコペニアになる主原因として問題視されています。
しかしどちらも取り組むことは決して難しくありません。どんなに気をつけていてもなってしまう病気はいくらでもあります。しかしサルコペニアは自分の行動次第でいくらでも予防できます。
サルコペニア予防の運動
まずは体を動かして筋肉を刺激することが大切です。そして少しずつ負荷を上げて筋肉量が増えるようなメニューにしていきます。
運動不足の人が加齢によって顕著に現れるのは、「抗重力筋の弱化・下半身の筋力低下・柔軟性低下」 です。
いずれも転倒リスクなどの要因です(柔軟性は特に股関節や足関節)。
まずは良い姿勢を作ること、下半身の筋力強化、柔軟性向上を心がけてください。
1.股関節回し
股関節が硬いと「立ちしゃがみがしにくい、歩幅が狭くなる、バランスが悪くなる」といったことが起こります。硬くなった股関節周囲の筋肉をほぐして、動きやすい状態に改善していきます。
1.片膝を大きく回すようにします。
2.外回し、内回しそれぞれ行います。
転倒防止のため、何かに捕まって行ってください
各20回
2.腿上げ
腿上げは股関節前面(腸腰筋)や太ももの筋肉を使います。特に腸腰筋は加齢による筋力低下が顕著な部分でもあるので、
2.上げた際に体が丸まったり、後ろに倒れたりしないように注意してください。各20回
3.スクワット
最も重要なエクササイズです。下半身だけでなく、体幹部も鍛えることができます。
1.足幅は腰幅より広く立ち、つま先をやや外側に向けます
2.股関節を曲げてお尻を下ろしていきます。
3.膝の高さ(太ももが床と平行)まで下ろしたら戻します
背中が丸まったりしないように注意してください。
しゃがむ深さで強度が変わりますので、キツイ場合は浅くしゃがむようにしてください。
15回
4.カーフレイズ
ふくらはぎの筋肉(主に腓腹筋)を鍛えることができます。ふくらはぎの筋肉は血液循環や姿勢保持に大きく関わる筋肉です。
余裕があれば片脚で行ってください。
1.腰幅程度に立ちかかとの上げ下げをします。
1回1回かかとが床に着かないように注意してください。
30回 片脚の場合は各20回
5.シーテッドカーフレイズ
椅子に座って行うカーフレイズです。座って行うことで主にヒラメ筋を鍛えることができます(ふくらはぎの筋肉は腓腹筋とヒラメ筋)。
腓腹筋が動的な働きがあるのに対して、ヒラメ筋は姿勢保持など静的な働きがあります。
1.椅子に座り(背中はまっすぐ良い姿勢)かかとの上げ下げをします。
負荷がかかりにくいので、太ももに重り(ペットボトルなど)を乗せて行うと効果的です。
30回
6.トゥレイズ
すねを鍛えます。すねの筋肉は姿勢保持に働く筋肉なので、バランス能力の維持などに大きく関わります。
1.立った状態からつま先を上げます
2.つま先を上げた際に、状態が後ろに倒れすぎないように注意してください。
30回
7.四つ這い
自体重を支える筋力を強化し、疲れにくい体や姿勢維持能力を高めます。
1.四つ這いの姿勢を作ります。肩の下に手首、股関節の下に膝が来るようにし、骨盤は軽い前傾になります。
2.体幹部が動かないように対角の腕脚を伸ばしてキープします。
お腹をしっかり締めて常におへそが真下を向いているように意識してください。
各40〜60秒
タンパク質を欠かさない
タンパク質の摂取不足がサルコペニアを加速させてしまうことは、様々な研究でわかっています。
タンパク質は筋肉や血液など体を構成している主原料です。筋肉量低下を防ぐため、運動の効果を高めるためにも1日の摂取量を増やしてください。
1日の摂取量目安(g) | ||||
男性 | 女性 | |||
推定平均必要量 | 推奨量 | 推定平均必要量 | 推奨量 | |
50〜69歳 | 50 | 60 | 40 | 50 |
70歳以上 | 50 | 60 | 40 | 50 |
おすすめタンパク質食品
- 鶏肉
- 魚介類(青魚、タコ、イカ、エビ、貝類など)
- 卵
- 大豆食品(豆腐、納豆、豆乳)
- ミックスビーンズ
- 乳製品(チーズ、ヨーグルト)
【不足すると】
摂取するタンパク質が不足すると、筋肉などが分解されて不足分を補うので、筋肉量などが低下し体力低下、免疫力低下などを引き起こしてしまいます。また脳卒中の危険も高まります。
タンパク質摂取の注意点
タンパク質というと肉類を意識しますが、肉類に偏ると腸内環境の悪化を招きます(肉類は悪玉菌のエサになる)。
良い腸内環境のためにも、動物性タンパク質、植物性タンパク質をバランスよく摂るように心がけてください。
1日8000歩歩こう
筋トレも重要ですが、何より歩くことが健康維持には大切です。今回ご紹介した筋トレも極論すれば、良い状態で歩くための土台作りと言えます。
意識しないと歩数は増えにくいので、エレベーター、エスカレーターより階段を使うなど、毎日意識的に歩くように心がけてください。
まとめ
超高齢化社会に伴い問題となってる介護や健康寿命といった話。どんなに気をつけていても病気になってしまうことはあります。しかし運動することで確実に寝たきりや介護のリスクを減らすことができます。まずは身体を動かす習慣をつけるようにしていきましょう。
参考文献
1.サルコペニア:定義と診断に関する欧州関連学会のコンセンサスの監訳とQ&A 厚生労働科学研究補助金(長寿科学総合研究事業)高齢者における加齢性筋肉減弱現象 (サルコペニア)に関する予防対策確立のための包括的研究 研究班
2.超高齢化社会におけるサルコペニアとフレイル 葛谷雅文 日本内科学会雑誌104巻12号
3.サルコペニアーそのメカニズムと防止策としての運動 石井直方
4.高齢者の栄養評価と低栄養の対策 葛谷雅文 日本老年医学会雑誌40巻3号
5.特定高齢者に対する運動及び栄養指導の包括的支援による介護予防効果の検証 日本公衆衛生雑誌58巻6号
6.栄養の基本がわかる図解辞典
7.自宅でできる自重筋力トレーニング 石井直方 荒川裕志
8.筋力バランストレーニング カラダ高性能エクササイズ100 佐藤拓矢