体幹部で最も核となるのがインナーユニットと呼ばれる部分です。この記事ではインナーユニットを構成する筋肉や働きについて解説します。
インナーユニットを構成する筋肉
インナーユニットを構成するメインの筋肉は「横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群」の4つになります。上部が横隔膜、下部が骨盤底筋群、腹横筋が腹部周囲を取り囲み、背面に多裂筋という構成になっています。この4つの筋肉で腹腔を前後左右上下から固定し安定させています。さらにアウターユニットと呼ばれる筋群がさらに固定し腹腔壁の安定性を高めています。
横隔膜

- 起始:剣状突起内面、第7〜12肋骨内面、外側脚及び第1〜4腰椎にかけた内側脚
- 停止:腱中心部
- 支配神経:横隔神経(頸神経叢)
- 作用:腹式呼吸時の吸気、腹圧を高める
横隔膜は胸腔と腹腔を隔てている筋肉です。腹式呼吸における吸気の主力筋です。拮抗筋である腹横筋と共収縮することで腹圧を高め、腹部を安定させる作用があります。
腹横筋

- 起始:第7〜12肋軟骨内面、胸腰筋膜深葉、鼠径靭帯、腸骨稜内唇、上前腸骨棘
- 停止:剣状突起、白線、恥骨
- 支配神経:肋間神経(第5〜12胸神経)、腸骨下腹神経、腸骨鼠径神経
- 作用:腹腔内圧の拡大、強制呼気
腹部で最も深層にある筋肉。腹筋でインナーマッスルといえば腹横筋のことを指します。コルセットのようにお腹を包んでいる形をしている筋肉で、息を吐き切るように努力呼気をした際にお腹を細く凹ませる働きがあります。腹圧を高める重要な筋肉です。
多裂筋

- 起始:第4頸椎〜第5腰椎までの横突起(乳頭突起)、椎間関節包、仙骨背面、上後腸骨稜、後仙腸靭帯
- 停止:各起始部から2〜4椎骨分上位の椎骨棘突起
- 支配神経;脊髄神経後枝
- 作用:脊柱の安定、脊柱の伸展、反対側回旋、同側側屈
多裂筋は細かい筋肉が連なるように椎骨に付着し、椎骨同士を引きつけて安定させる役割があります。多裂筋は脊柱全体に付着しており、それぞれを頸多裂筋、胸多裂筋、腰多裂筋と言います。多裂筋は頸椎側が細く腰椎側に連れ太くなることから、腰椎を安定させる作用が強いことがわかります。つまり多裂筋の弱化は腰痛の要因になります、
骨盤底筋群

骨盤底筋群は骨盤隔膜(肛門挙筋群、尾骨筋)、尿生殖隔膜(深会陰横筋、浅会陰横筋)から構成される筋肉の総称です。骨盤隔膜は肛門を囲むように骨盤腔全体をふさいでおり、尿生殖隔膜は生殖器を囲うようにし骨盤腔前方をふさいでいます。骨盤底筋は特に女性の尿漏れなどに大きく関与する筋肉です。
骨盤隔膜
- 肛門挙筋群
-
恥骨直腸筋
- 起始:恥骨結合両側の恥骨上枝
- 停止:肛門直腸結合〜外肛門括約筋深部
- 支配神経:陰部神経
- 作用:骨盤隔膜を構成し骨盤内臓を支える
-
恥骨尾骨筋
- 起始:恥骨直腸筋の起始外側
- 停止:肛門尾骨靭帯、尾骨
- 支配神経:陰部神経
- 作用:骨盤隔膜を構成し骨盤内臓を支える
-
腸骨尾骨筋
- 起始:内閉鎖筋筋膜の腱様弓
- 停止:腸骨尾骨縫線、尾骨
- 支配神経:陰部神経
- 作用:骨盤隔膜を構成し骨盤内臓を支える、腹圧を高める補助
- 尾骨筋
-
- 起始:仙骨尖
- 停止:尾骨
- 支配神経:仙骨神経叢
- 作用:仙棘靭帯と一体となっており、単筋での有効な作用はほとんど無い。肛門挙筋群とともに骨盤隔膜を構成し骨盤内臓を支える、腹圧を高める補助といった作用をする
尿生隔膜
- 深会陰横筋
-
- 起始:恥骨下肢、坐骨枝
- 停止:腔壁および女性(男性)尿道壁、会陰腱中心
- 支配神経:陰部神経
- 作用:尿生殖隔膜を構成し骨盤内臓を支える、尿道の閉鎖機能、腹圧を高める補助
- 浅会陰横筋
-
- 起始:坐骨枝
- 停止:会陰腱中心
- 支配神経:陰部神経
- 作用:尿生殖隔膜を構成し骨盤内臓を支える、尿道の閉鎖機能、腹圧を高める補助
インナーユニットの働き
- •腰椎や骨盤を安定させている
- アウターマッスルを動かしやすくしている
腹腔内圧を高め脊柱(腰椎)や骨盤を安定させています。またインナーユニットは全ての身体運動の予備動作に関与しています。アウターマッスル(腕や足)を動かすのに先立ち、腹圧を高め脊柱(体幹)を安定させ体が楽に滑らかに動けるようにしています。逆を言えばインナーユニットが弱いと力んで硬くぎこちない動きになってしまいます。
インナーユニットを鍛える効果
- バランスが良くなる
- 姿勢が良くなる
- 力みなく楽に身体が動かせるようになる
- スポーツパフォーマンスの向上
- 腰痛の予防
- 下腹部ぽっこりの改善
- 尿漏れの予防・改善
バランスが良くなる
インナーユニットを鍛えることで体幹が安定しバランス能力が向上します。体幹部には様々なインナーマッスルがありますが、体幹の安定やバランス能力の向上にはまずインナーユニットを鍛えることが先決です。
姿勢が良くなる
インナーユニットは腰部がつぶれないように安定させているので、骨盤後傾や猫背といった悪姿勢を防ぎ良い姿勢を作ります。
力まない動きの獲得
「いつも力んでいて、なかなか力みが取れない」なんていう人は、インナーユニットを鍛えてください。インナーユニットを鍛えることでアウターマッスル(腕や足)を動かす際に身体を安定させ楽に動けるようにしてくれます。
スポーツパフォーマンスの向上
インナーユニットはアウターマッスルが働く前にまず収縮が起こり体幹を安定させます。上肢(腕)を動かす際は30ms、下肢(足)を動かす際は110ms早くインナーユニットが働きます。(※1ms=0.001 秒に相当)インナーユニットが強いほど身体を動かすことが楽になり、良いパフォーマンスを発揮できるようになります。
※インナーユニットの機能が弱いとアウターが働く際に体幹が安定せず身体軸がブレる他、動かすアウター自体が安定させようと力みが生じてしまいます。
腰痛の予防改善
アウターマッスルによる身体運動に先立ち、インナーマッスルは腹腔内圧を高め脊柱を安定させています。体を動かす際に脊柱(腰椎)が安定することで腰部への負担が減り、腰痛を予防改善が期待できます。
下腹部ぽっこりの改善
下腹部をぽっこりさせないためには腹部深層筋の腹横筋、表層の腹直筋を鍛え腹腔内臓を前方へ押し出されないように支えることが重要です。インナーユニットの中では特に腹横筋が腹部周囲を圧迫しお腹を凹ます働きがあリ、下腹部ぽっこり予防に効果があります。
尿漏れの予防
加齢による尿漏れは腹圧性尿失禁といい、骨盤底筋や膀胱周囲の靭帯の弛緩などが原因とされています。腹圧性尿失禁は45~59歳は41%、60歳以上は31%で高齢になるほど切迫性尿失禁との混合性の割合が増えていきます。尿漏れの予防改善に骨盤底筋群を鍛えることは効果が立証されており、日本泌尿器科学会が定める女性下部尿路症状ガイドラインで推奨グレートAとされています。
インナーユニットとインナーマッスルの違い
インナーマッスルとは身体の深層の筋肉のことを指します。表層はアウターマッスルに覆われているため目視で確認することはできません。インナーユニットは「横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群」のことを言います。インナーユニットは全てインナーマッスルに分類されますが、インナーマッスル=インナーユニットということではありません。
- インナーユニット
-
体幹の腹部周囲にある「横隔膜、腹横筋、多裂筋、骨盤底筋群」の4つの筋肉の総称。身体の核となる筋肉でもあり、コアとも呼ばれている。インナーユニットは全てインナーマッスルに分類される。
- インナーマッスル
-
身体の深層にある筋肉で、表層をアウターマッスルが覆っているので外見からは見えない。インナーユニットもインナーマッスルに分類されるが、それ以外にも身体の様々な部分にインナーマッスルは存在する。
インナーユニットの鍛え方
インナーユニットを鍛えるには呼吸(腹式呼吸)が最もおすすめです。腹式呼吸で腹腔内圧を高めることでインナーユニットを鍛えることができます。

- 仰向けに寝て両膝を立て骨盤はアップライトに構えます(両膝の間にミニボールやクッションを挟んでください)。
- お腹が膨らむように息を吸います。
- お腹がしぼんでいくように息を吐きます。できる限り吐き切るようにしてお腹を凹ませてください。
※息を吐いている時に骨盤が後傾しないように注意してください。骨盤は常にアップライトに構えます。
初めのうちは寝て行って下さい。慣れていたら座っている時にも手軽にできるようになるので、1日の中でヒマをみて行っていくことで少しずつインナーユニットが活性化し安定しいきます。
まとめ
インナーユニットは狭義の体幹とも呼ばれ、身体の核(コア)となる部分です。日常生活でもスポーツでも最も重要となる根っこの部分なので、しっかりと機能させていきましょう。